東峰 角印 13.3尺 口巻 銘木握り

朴石玉成と紹介したので、両者共通の師である東峰もここで披露しておこう。

個人的に、東峰という銘を聞くと、紀州へら竿の歴史の中でもかなり早い世代、半ば伝説化した竿師という印象があるのだが、実際は魚心観・鉄心斎らと並んで先代魚心観の弟子に当たる。

「昔の人」というそのイメージは、玉成のページでも述べた「長尺の東峰」という代名詞に主に起因しているように思う。

これも別の記事「短竿・長竿―長さの妙」で書いたように、現代は「短竿の時代」であり、長竿に重きが置かれた頃からは、時間的に遠く隔たってしまっているからだ。


さて、ここに挙げる「角印 13.3尺 口巻 銘木握り」は、東峰の中でも高級品に位置付けられる脇銘。


「無量寿」などに見られる、東峰おなじみの瓢箪の絵面ではなく、文字通り銘を四角で囲っただけの焼き印が、なぜか不思議な高貴さを漂わせる。


必要十分な機能さえ具えていれば、変な飾りなど不要でしょう――という、肩肘張らない矜持を感じる、しっとりとふくよかな釣り味は、長竿に独自の妙を得、それを磨き上げた東峰ならではのものと言えよう。

才気煥発に思わず瞠目――という驚嘆の愉しみではなく、その悠然とした姿勢、鷹揚な風格を落ち着いた気持ちで味わいたい一竿である。


東峰が自らの特質を遺憾なく発揮できる時代に生きたことは、これもまた一種の天の配材なのかもしれない。

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