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雲影 光舟 9.3尺 緑節巻 綿糸握り

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これまで何度か書いたように、紀州へら竿には「舟」の字を持つ銘が多い。 また、それに次いで目立つ漢字として「雲」がある。 これらを合わせた「舟雲」、あるいは「雲舟」なる竿師がおられたのかは知らないが、脇銘も視野に入れれば、今回ご紹介する「雲影 光舟 9.3尺 緑節巻 綿糸握り」は両字を含む例となる。 画像には上手く再現できなかったが、この竿の節巻は濃緑の漆でなされている。 この点は珍しい意匠と言えるかもしれないが、それ以外の作りに関しては、極めてオーソドックスな、雲影らしい一本と言えよう。 少し横道へ逸れるが、近年、市場に出てくる中古の竹竿を眺めていると、高い値の付く要素が三つあるように思われる。 先ず、短竿。 そして、「引ける」竿。 さらに、「希少」とされるもので、特にその中でも、「目立つ」ことが重要らしい。 個人的なことを言えば、私は上のいずれにも特別な魅力は感じない。 ただ、珍しいものについては、時に心惹かれることもある。 もっとも、その場合、一般の嗜好とは逆に、なるべく「目立たない」方が好ましい。 秘かな自己満足と言えばそれに違いなく、嫌らしいと思われても致し方ないのだけれど、そんな喜びを得ようと思うのは、あくまで「時に」であり、目の色変えて常にそれを追い求めたりはしていないことを強調しておきたい(笑)。 閑話休題――「雲影 光舟 9.3尺 緑節巻 綿糸握り」は、そんな私の心の琴線に触れたものの一つなのだ。 その珍しい緑の節巻は、通常、何の変哲もないもののように見えるが、光の加減により実に深く、美しく輝くことがある。 この節巻を除けば、奇を衒ったところはほとんどなく、極めてオーソドックスな、雲影らしい作品である。 握りは実用性に優れた綿糸で巻かれ、そのふくよかな形状は本当に握りやすく、肌触りの柔かな綿糸と相俟って、長時間振っていてもまったく疲れることがない。 また、負担の掛かる玉口の二重巻き、やや厚めに施された塗りなど、念の入った丁寧な細工は、雲影の面目が躍如として窺われる。 近年の竹竿には九尺でも四継のものが多くなってきたが、これは昔の標準に則った三継。 穂先から握りの上部までに亘っての太さの差――所謂テーパー――の小さな生地組みで構成されており、竿全体が大きく撓む胴調子も、正に私の好むところで、魚とのやり取りが何とも愉しい。 価格が手頃であることも