夢月道人 12.1尺 節巻 綿糸握り
夢月道人は、現在最も人気のある竿師の一人であろう。 先代師光―先代げてさく―先代夢坊―水玉―夢月道人と綿々たる系統を継いではいるが、無論、今はもう確固とした地位をこの世界に占めている。 これはちょうど、以前ご紹介した「朴石」と同様だ。 その夢月道人の近年作は、向月・花月・残月という調子分類を具え、この順に硬から軟へと移行するのはご存じの通り。 そして、巻きの漆が漆黒ではなく、紫がかった透き感のあるものを用いて、控えめながら至極美しい、粋な意匠を見せている点も、釣り人を魅了する大きな要因となっている。 さて、私が所有するのは、調子名も、つづみ・野武士・角・香露といった脇銘も見られぬ、かなり古い一本である。 手の込んだ装飾もなく、ごくごくシンプルな作りで、また、当時の釣りの状況を反映しているのであろう、見た目、振り調子とも非常になよやかな印象だ。 櫓聲などは、これと同じような感じでも、魚が掛かると豹変し、ぴしッと芯が通るような感触を覚えるが、この夢月道人は第一印象そのまま、魚とのやり取りもあくまで柔らかい。 今流行りの「引ける竿」ではない。 しかし、魚に一方的に、いいように遊ばれるようなことはなく、互いに引きつ引かれつすることを厭わず、ゆったりと余裕をもってやりとりすれば、この上なくふくよかな趣を味わわせてくれる。 遺憾ながら近年作は保有していないので、それとの比較を述べることはできないが、調子の基本はここにすでに胚胎されているのではなかろうか。 そこに、魚の大型化をはじめとする状況変化への対応をうまく果たしたことで、釣り人の信頼と評価がより一層高まったのだと思う。 夢月道人は(も)、紀州へら竿の系統、そこに名を連ねる先人の感性や技量の土壌から、才を種子、修を養分として見事に開花結実した竿師と言うべきだろう。