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師光(二代目) 特作高野竹 10.1尺 口巻 籐・西陣織握り

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本サイト開設直後の記事「 紀州へら竿の歴史・系統 」でご紹介した通り、へらぶな釣り専用の竿は、チヌ(黒鯛)竿の製竿師であった大阪の竿正により初めて世に問われ、その後、二代目竿正と竿五郎が、高野竹(スズ竹)を穂持に用いる、現代まで通ずるへら竿の基本構成を確立した。 さらに、この竿五郎の下で修業を積んだ師光(児島光男)と源竿師(山田岩義)が、それぞれ1931(昭和6)年、1934(昭和9)年に和歌山県橋本市に戻って工房を構えたことから、紀州へら竿の名が確立するとともに、その世界が一気に広められ、かつ深められることになったのである。 また、紀州へら竿の源泉の一つと言うべき師光は、自ら竿作りに勤しむと同時に数多の弟子を育成し、これら竿師たちからまた新たな芽が萌え出して、この世界が絢爛たる様相を呈するようになったことは、ご承知の通りである。 現在、師光の竿を目にする機会は少なく、私も手にしたことがないため、その特徴などをここに述べることはできないのだが、仮に師光が一本の竿も作ることがなかったとしても、上の事実を鑑みれば、紀州へら竿の直接の祖という評価が変わることはないだろう。 さて、そんな紀州へら竿の祖の薫陶を受けた弟子の一人に、児島一誠、すなわち師光の長男がいる。 その境遇からも類推される通り、一誠は子どもの頃から父親の仕事を手伝い、中学を卒業すると同時に本格的に竿師への道を歩み始めた。 当初の銘は「東千鳥」だったが、1974(昭和49)年に師光が亡くなり、この銘を継いだのである。 このように紀州へら竿界の名門の惣領として、偉大な銘を受け継いだわけだが、二代目師光は多くの弟子をとって門閥を広げたり、名を利用して尺単価を吊り上げたりすることなく、自らの分をわきまえ、一心に竿作りに取り組んできた。 無論ここには、へらぶな釣り、延いては紀州へら竿界における時代的状況も影響しているのだろうが、二代目師光の実直な性格による部分が主であろう。 私の手元にある「特作高野竹 10.1尺 口巻 籐・西陣織握り」にも、そんな二代目師光の性格と姿勢が如実に現れているように思う。 脇銘が示すように、穂先を除き高野竹による生地組みの一本だが、「 総高野(竹)・総矢竹の竿―特徴と味わい 」の中で一言した通り、この竿の特徴は、「全身これ力の塊」といった感じの「張り」にあり、魚が大型化し、しかも魚

影舟 ぬ希 硬式純正鶺鴒 14.5尺 総塗り研ぎ出し 綿糸握り

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影舟もまた、櫓聲・至峰などと同じく、熱烈なファンを持つ竿師である。 そのため、尺単価も現役時から高く、一線を退いた現在も、オークションで時折、異様とも思える値の付くことがある。 昭和31(1956)年、先代げてさくの門を叩いて斯道に入ったが、その銘からも窺える通り、先代の孤舟にも教えを受けた。 銘については、当初、「影」の字に暗いイメージを感じた孤舟が難色を示し、影舟も一旦はそれに従ったものの、思い捨てがたく、やがて我を通して師の許しを得た――というエピソードを、影舟自身語っているのに接したことがある。 へら竿は風切り刀――と喝破した孤舟の竿は、「先抜け」「先に抜けた」と形容される通り、持ち重り(すなわち持った際に重く感じること)のない、極めて機能性に優れたものであることはあらためて言うまでもないだろう。 個人的に、二代目孤舟の初期の竿などは、それが過ぎるのではないかと感じることさえあるくらいである。 影舟の作品も、孤舟の思想に則り、節巻・綿糸握りといった実用的意匠を基本に据えて、へらぶな釣りの道具として必要十分な機能性を具現している。 しかし、敢えて師との相違を言えば、やや趣味性に重きを置いていることではないかと思う。 魚を掛けた際、孤舟の竿にも独特の味わいのあるのはもちろんだが、影舟においては、そこにさらに艶、あるいは色気といった風趣が、霞のように漂い纏わっているように感じるのである。 さて、そんな影舟の作品で私の手元にあるのは、「ぬ希 硬式純正鶺鴒 14.5尺 総塗り研ぎ出し 綿糸握り」である。 この竿を入手したのは2014年頃のこと、影舟は既に廃業して久しく、従って当然中古のものを、紀州へら竿専門店で購入した。 しかし、中古とはいえ状態は申し分なく、疵はもちろん、反りや曲がりも皆無で、込みも完璧だった。 何より魅せられたのは、14.5尺という長さながら4継という、かなりの長寸切りの生地組み、しかも元径わずかに10.6mmというそのプロポーション。 この数値から、相当な軟式竿を連想されるかもしれないが、「硬式純正鶺鴒」との調子に偽りはなく、竿掛けに載せた姿はすッと伸びて凛としており、もちろん仕掛けの振り込みでは師譲りの操作性を発揮し、そして掛かった魚は張りと粘りの絶妙なバランスで見事に捌いてくれる。 これほどの竿に、何故通常等級の「ぬ希」が刻されている