朴石 志嶺静玉 硬式よしきり 高野竹 12.3尺 節巻 籐・螺鈿握り
現在はもう紀州へら竿の重鎮の一人として押しも押されもせぬ存在だが、朴石も先にご紹介した伊集院同様、若い時から竿作り一筋に歩んだのではなく、三十歳にしてこの世界へ足を踏み入れたという経歴の持ち主である。
その特徴は、細身で、洗練された意匠を具えた点にあると言えよう。
本記事でご紹介する「志嶺静玉 硬式よしきり 高野竹」も、そんな朴石らしさが至る所に見られる一竿。
丈二の寸伸びで元径が9.6mmと、頼りなさを覚えるほど細く、竿掛けに置いた姿も、中尺でありながら些かしな垂れた印象があり、魚がかかったら握りのすぐ上からげんなりと伸されてしまうのではないかとの懸念を禁じ得ない。
しかし、実際の掛け調子は中式胴調子といったところで、元上・元に使われた高野竹の粘りと張りの絶妙なバランスにより、引きに応じて変幻自在に撓みながら、ぴしッと魚を制御してくれる。
はっきりとした芯があってそれが能動的に力に対抗するのではなく、あくまでいい意味での受け身に徹している印象だ。
穂先先端の結糸部は蛇口。
細身の全身と相俟って、水や風を切る感覚も実に心地いい。
巻きは標準的な段巻(節巻)となっている一方、握りは籐を巻いた上部下部の間に漆を施し、そこに螺鈿を鏤めて非常な美しさを演出している。
無論、竿を握っている時には傍からは見えない訳であるが、これを振っている本人の気分はこの上ない。
「粋」とは、こういう満足を、周りにひけらかさずに味わうことなのではなかろうか。
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