竹竿は手入れやメンテナンスが大変だ――などという言葉を時に耳にするが、決してそんなことはない。
別記事「
竹竿の使い方」において、竹竿は魚を釣る道具なので、使い方に特別神経質になる必要はない――と書いたが、これは日常の手入れについても同様である。
以下、手入れに加え、保管およびメンテナンス(修理)の注意点を書いてみたい。
私は、釣りを終えて竿を収納する際、バラした状態でまず濡れタオルで汚れを落とし、すぐに今度は乾いたタオルでその水分を拭きとる。
この時注意すべきは、細い部位である穂先と穂持、特に穂先は、タオルを往復させることなく、必ず一方向に拭き抜くということ。
さらに、一回拭いてタオルを根元の方へ戻す際、それが抜け切っていず、先端に引っ掛かってしまうことが結構あるので、焦らず慌てず、慎重に行うことが大切だ。
特に、長寸切りの生地組みの、長い穂先などを拭くに当たっては、十分注意したいところである。
以上の拭きについては、汚れを落とし、水分を除く最低限に。
必要以上にごしごしと強く拭くのは、胴漆を早く飛ばす原因となるので避けたほうが良い。
その後、例えば標準的な四本継ぎの竿なら、穂先を元上の中へ、穂持を元の中へ収納し、口栓を嵌めて竿袋へ――となるわけだが、この時の口栓は軽めにしておくのが安全。
なぜなら、使った直後の竿は、負荷を受けたために各部位の玉口が緩んでいる場合があり、その状態で口栓を奥まで嵌め込んでしまうと、釣り場で含んだ水気と相俟って抜けなくなる危険があるからだ。
さて、帰宅してから、私は点検を兼ねて今一度竿を取り出す。
そして、反り・曲がりが出ていないか、口割れはないか確認した後、テーブルなどの上に並べて数時間そのままにしておく(床に直置きして、誤って踏んづけたりしないよう、くれぐれもご注意を)。
実は、この状態で竿を眺めているのが、私にとってはまた大きな愉しみでもあるのだ。
釣り場で水拭きした後、すぐに乾拭きにより水気はとってあるので、これで乾燥は十分果たされるはず。
あとは竿を収納して口栓を嵌め(この時はしっかりと嵌め込む)、竿袋に入れて保管。
これだけで日常の手入れは完了だ。
なお、竹竿を保護しようと、蜜蝋などを塗りたくなるかもしれないが、これはやめた方がよいと思う。
このようなものが付着していると、火入れや胴拭きといったメンテナンスを竿師が行う際、大きな支障となるそうだから。
次に、保管については、適度な湿度・温度の下、立てた状態で――というのが必要十分条件と言えよう。
高湿度となる場所では、黴の発生や癖を来たす恐れがある。
それより気をつけたいのは、湿度が低すぎることで、酷い条件下では、玉口や芽に割れを生じたり、繊維が枯れて竿本来の機能・釣り味が失われる場合もある。
とはいえ、床下収納庫、屋外の物置、また冷暖房機の風が直接あたる場所などを避け、人にとって健康的な環境に置くだけで、いずれの問題もほぼ回避されると思う。
欄間などに数点支持で横置きするのも、反りを避けるため控えた方がよいかもしれない。
それから、これなどはあくまで気分の問題だが、竿袋の紐の結びも、私は必要以上に強く締めないようにしている。
最後にメンテナンス(修理)について少々。
竹竿は自然の素材を用いているので、少々の反りはどうしても生じる。
しかし、これも自然素材ゆえに、自己復元力的なものが具わっており、暫く休ませておくと元の状態へ戻る、あるいは症状が軽くなる例も普通に見られる。
従って、反った、大変だ、メンテだ――と反射的に修理に出すには及ばない。
それに、少々反りがあっても、釣り味にはほとんど影響はないから。
ただ、反りが大きくなって、竿を竿掛けに置いた際、くるんと回って下を向いてしまうようになると、気分的によろしくない上、自然、同じ向きにばかり力が掛かるようになって反りがさらに昂進するので、火入れに出すべきだ。
緩やかな反りではなく、ある一点においてカクンと曲がってしまった場合も、竿師に見てもらった方が無難である。
一方、口割れ・芽割れについては、たとえ小さなものでも早急に修理を要する。
これがひどくなると、修理不能で貴重な竿を駄目にする羽目となる。
また、継ぎ部の込みが浅かったり、逆に深すぎたりする場合も、大きな故障につながる恐れがあるので、調整すべきだ。
胴拭き(胴漆)の目安は、全体に艶がなくなるとともに、竿に付着した水滴が、玉になって滑り落ちるのではなく、べちゃっと潰れた感じに滲み残るようになったら潮時だろう。
なお、メンテナンスは、竿師に直接依頼できる場合は別として、まず紀州へら竿を扱っている専門店にその旨伝えてみるとよい。
良心的な店なら、相談にのってくれると思う。
何だかんだと色々書いたけれども、いずれも大して手間暇のかかるものではないことはお分かり頂けたことだろう。
これだけの留意で、数十年、用に立ってくれるのも、竹竿の優れた特徴。
今、私の手元には、五十年以上前に作られた竹竿が何本もある。
もちろん、すべて現役だ。
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