蛇口とリリアン

釣り竿の穂先先端、仕掛けを結節する部分の形状として、蛇口とリリアンがある。

まず、老婆心ながら、蛇口の読み方について注意すると、「じゃぐち」ではない。

では、「へびぐち」なのか、それとも「へびくち」が正しいのか――これについて少々調べてみたけれど、明確な解は得られなかった。

ただ、現在の実情は、「へびぐち」の読みが主流といってよいだろう。


言うまでもなく、蛇口とは、ナイロン素材などを輪にしたもの、一方のリリアンは、リリアン紐に結び目(こぶ)を作ったもので、紀州へら竿も、この二種のいずれかを穂先に備えている。

これらへの仕掛けの取り付け方については、釣りの手引書を参照頂くことにして、ここではそれらの特徴についてご紹介したい。


まず、仕掛けの着脱のしやすさに代表される機能性に関して言えば、これはもう、リリアンの方が圧倒的に優れている。

それにもかかわらず、蛇口穂先の竿も少なくないのは、合わせなどで竿を上げる際のキレ、いわゆる水切りの感触に、得も言われぬ心地よさがあるからだ。

ただし、竿がこの感触を醸すためには、水に浸かる穂先全体が細く、繊細な張りとしなやかさを具えていなければならない。

その必要条件として、必然的に削り穂であることが要求される。

太い合わせ穂などに蛇口をつけても、感触への寄与はほとんどなく、仕掛け装着の利便性が徒に失われるだけである。


さて、蛇口穂先の竿の代表としては、最高級品に位置付けられる櫓聲至峰を筆頭に、影舟・一文字などが挙げられよう。

唯一、尺単価三万円を超えるような竿で、かつ削り穂にもかかわらず、一貫してリリアンを採用している竿師が、山彦だ。

魚の大型化を見据えて竹竿の現代化をいち早く目指し、胴で魚を寄せる竿を実現すべく、穂先の径を上げたことも、その理由の一つかもしれない。

しかし、より大きな因をなしたのは、師である源竿師の竿作りに忠実たらんとする精神だったように思う。


浅学のため、その歴史のごく初期、どちらが採用されていたかは知らないが、現在のへら竿の直接の源泉としての源竿師・師光は、どちらもリリアンを用いた。

以後、源竿師系統の竿は、総じてリリアン穂先である。

片や師光系統を見ると、こちらは蛇口、リリアンさまざまで、同一の竿師でも時代や脇銘などで使い分けている例も見られる。

ただ、先に述べた、繊細な高級竿に蛇口を具えたものが多いということは間違いない。

師光からは、源竿師よりさらに多くの竿師が出たので、このような多様性が生じたと思われる。


もう一つの蛇口をへら竿の基本・標準としたのは、孤舟であろう。

「穂先は道糸の延長」との思想に則り、極めて繊細・美妙な穂先を削り出した孤舟が、リリアンではその穂先の特質が殺がれてしまうと考えたのは当然であり、代わりに蛇口を採ったのもまた、至極もっともなこと。

そして、この一門の竿師もまた、須らく蛇口穂先を一途に守っているのである。

コメント

  1. 蛇口の修理は、どこの釣具でもあつかっていまさか?

    返信削除
    返信
    1. どこの釣具店でも――というわけにはいかないでしょうが、紀州へら竿を取り扱っている店なら相談に応じてくれると思います。
      まずは問い合わせてみては如何でしょうか?

      削除

コメントを投稿

このブログの人気の投稿

紀州へら竿系統図を眺めて

竹竿の手入れ・保管・メンテナンス

櫓聲―脇銘の変遷