五郎 9.2尺 口巻 紅葉握り

世の中には、櫓聲、至峰、影舟といった極めて高価な竿を何十本も所有するような、星に恵まれた人もいるらしい。

このブログも、先ず櫓聲至峰を紹介したが、記事を御覧頂けばお分かりの通り、私は決してそんな境遇ではない。

櫓聲は他にも何本か持っており、それらについては追ってご紹介するつもりだけれど、コレクションの中心となるのは中堅竿師の作で、ごく安価な竿も少なからず保有・愛用している。

しかしながら、このような多様性もまた良いもので、高級竿一辺倒ではなかなか見えにくい、それぞれの階層――と括るよりも細かく、竿一本々々の特徴や味わいに気付くことも多い。


今回御目に掛けるのは、紀州へら竿の中では手頃な価格で入手可能な一竿、「五郎」。


一家に一本、五郎か豊魚――と言われるのは、単に価格的に手にしやすいだけではなく、作りが堅実で安心して使える上、竹竿の風趣も十分に味わえるためであろう。

特にこの竿は、五郎が得意とする、天然の紅葉をあしらい、透き漆を重ねた握りが、竿の趣を一層深めている。


明示されてはいないものの、元竿の節数および竹の肌合いからすると、恐らく総高野。

穂先は合わせ穂で、さすがに櫓聲、至峰のような繊細美妙さはないが、紀州地産高野竹のしっとりとした粘りで魚を上げる感触は何とも心地よい。

太めの穂先、細めの元とテーパーが小さく、竿全体がしっかりと撓んで仕事をしてくれるので、反りの生じる懸念もほとんどない。

竹竿入門用としては勿論、愛好家にとっても十分持つ価値がある竿と言えよう。

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