櫓聲 竹露流 硬式 15.2尺 節巻 綿握り

私が「櫓聲(ろせい)」という名に初めて出会ったのは、竹竿に興味を持ち始めてから半年ほど経った時だった。

オークション・サイトをつらつらと眺めている時、開始価格38万円で出品されている竿に気付いて一驚したのだ。

確か、それは「櫓聲 秘伝」の短竿。

価格とともに強烈な印象を受けたのは、俗に「火の玉」と呼ばれる、漆を塗り重ねて研ぎ出した握りで、黒・赤・緑の三色のけばけばしさに、正直、反射的に嫌悪を感じた。

当時、まだ竹竿に関する知識の浅かった私は、そんなこともあって、一体誰が、こんな竿をこんな値で買うのだろう――と思ったことを鮮明に覚えている。


しかしその後、竹竿の所有本数が増えるとともに、知識も蓄積されていくにつれ、櫓聲というのが紀州へら竿の中でも最高峰に位置付けられる銘で、「秘伝」は最晩年に作られた竿の脇銘であることを知るに至り、いつかはこの櫓聲を使ってみたいという思いが次第に強まっていった。

が、物事は上手くいかないもので、その後、色々なところで櫓聲を目にしたものの、「欲しい」と思う気持ちと反比例して収入が漸減していく状況となり、なかなか手にすることができなかった。


長年の念願が叶ったのは、初対面から6年経過した夏、この「櫓聲 竹露流 硬式 15.2尺 節巻 綿握り」によってである。


竿が届いて、胸の鼓動を抑えながら荷をほどくと、重厚な、野武士の如き面構えが目に飛び込んできた。

本来、私は細身の竿が好きなのだが、そんな好みからの些細なずれはすっかり忘れ、まったく気にならないほど、その存在感に圧倒された。

何よりも、一見荒削りの印象を与える、その穂先には強く魅了された。


そして、この竿を見て覚えた満足は、実際に使ってみて驚嘆へと変わった。

先ず驚いたのは、あすこへ餌を落としたい――という位置へ、ピンポイントで打ち込めること。

無論、それなりの技術は必要だけれど、かなり強い風が吹いている状況でも、これが楽にできるのである。

さらに、魚が掛かると、あちこち走り暴れることなく、掛かったその場でひらひらと真上に上がってくる感覚は、それまで経験したことのない、実に不思議なものだった。

一方、その軽快な取り込みが何となく物足りないと思うと、その気持ちが竿を通じて伝わったかのように、魚が適度に竿を撓らせてくれるのである。


この竹露流は、櫓聲の名声を盤石なものとした作品と言われ、また、引き続く数々の名竿を生み出す技術はここですでに完成していたとも評価されている。

実際、振り調子にせよ、掛け調子にしろ、「魔性の竿」という呼び名も宜なるかな――と思う。

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