瑞雲 軟式 14.3尺 口巻 乾漆握り

瑞雲については、既に「闇からす 高野竹 11.6尺 口巻 綿糸握り」において一度述べた。

従って、この竿師に関心をお持ちの向きには上のページをご参照頂きたいのだが、便宜的にここでも今一度その主な点を挙げるとすれば、次のようになる。


まず、質実で飾り気の少ない竿を基本とする、いわば不器用なタイプの職人ながら、それだけに細かな作りまで疎かにしていないことで、個人的に、瑞雲の竿を手にすると、幸田露伴の「五重塔」の主人公、大工の十兵衛が自ずと連想されてくるのである。


さらに、雷鳴・悦哉といった脇銘が広く知られている事実からして、硬式の強い竿を得意とする竿師という印象を纏っているとも、言ってよいと思う。

しかしながら、上の「闇からす 高野竹」に加え、私の保有するもう一本の瑞雲も、ともにこのイメージとは裏腹な、細く柔らかい、嫋やかなものなのである。

「軟式 14.3尺 口巻 乾漆握り」がそれで、正しく名は体を表す一好例だ。



14尺を超える長さながら四継ぎという長寸切りの生地組みで、仕舞寸法が長いため短めの竿ケースには入らないことがあると同時に、取り扱いにも少々気を遣わされる。

この点は十分に認識して特に注意しているので実際に仕出かしたことはないものの、竿の収納時に拭く際など、得てしてタオルを穂先先端に引っ掛けてしまいそうになるのである。


そしてここに10.4mmという元径の数値を出せば、そのおおよその姿を想起頂けるのではないだろうか。



このような竿ゆえ、当然ながら量目を主眼とした釣り、すなわち素早い手返しと取り込みによる効率的な釣りにはまったくそぐわない。

風のある時などは細く長い穂先がぶれてエサを落とす位置が定まらないし、魚が掛かるといいように走られてしまう。


従って、現代の一般的な価値観からすれば、「何故そんな竿を?」という疑問を持たれるに違いなかろうけれど、それに対しては容易に回答できる。

それすなわち、「そんな調子が好きだから」なのだ。


もっとも、当然ながら使うべき時と場所は選んでいる。

魚の活性が高くて適度な待ちの間合いを作れない時季や、魚の平均サイズが尺近くから上であるような池でこの竿を振っては、徒にストレスを感じること必定だ。

しかし反対に、落ち着いてぽつりぽつりとしか浮子の動かない季節、小さな魚が主体の池にこの竿で臨んだ場合には、得も言われぬ閑寂な趣を味わうことができるのである。


そんな一芸に秀でたスペシャリストとして、これからも末永く釣りに彩を添えてほしく、またそれが期待できる一竿であることは疑いない。

コメント

このブログの人気の投稿

紀州へら竿系統図を眺めて

竹竿の手入れ・保管・メンテナンス

櫓聲―脇銘の変遷