伊集院 15.2尺 口巻 綿糸握り

竹竿を購入する際、実物を直接目で見て、さらに継いで手に持ち振ってみれば、魚を掛けた時の風趣、いわゆる掛け調子以外はおおよそ感得できる。

しかし、オークションをはじめとする通信販売ではこれは望めないことで、しかもオークションの場合、大抵は返品不可とされているため、落札したのはいいが、いざ届いた竿にこんなはずでは……と落胆することも避けられない。

もっとも、その分価格的には抑えられる傾向にあり、思わぬ良い買い物のできる例もあるわけだ。


個人的なことを言えば、私も少なからぬ竹竿をオークションから入手してきたが、幸いなことにそのほとんどが「概ね満足できる」以上の結果だった。


そんな中、これは失敗したかな――と思った一本に、「伊集院 15.2尺 口巻 綿糸握り」がある。

もっとも、使用に支障を来たすような割れや酷い反り、視覚的に看過できない大きな傷があったわけではない。

これまでに何度か書いたように、私は元の細い、オチ(テーパー)の小さな竿が好みなのだけれど、この「伊集院 15.2尺」は元径の大きな、ぼってりした感じの一本だったのだ。



もちろん、入札に際しては画像をよく確認したのだが、穂先から元までばらした上での全体像がなく、特に元の太さが把握できなかったことから、出品者に「握り上部、銘の刻印された部分の径は何mmか」と尋ねたところ、「1.2cmほど」との回答があり、その大まかさや釣り竿に関する知識程度が想像されて不安を覚えたものの、当時伊集院は保有しておらず一つ欲しかった上、値が安かったの思い切って入札したら、競合なくそのまま落札となっ(てしまっ)たのである。


しかも、太いことに加えて中浚いを抑えた肉厚に仕上げられており、丈五という長尺も相俟ってかなり重い。

いやしかし、大切なのは継いだ時のバランス、それが先に抜けていれば――との微かな期待も、池に臨んだ結果、無残に散ってしまった。


実際、同等の長さの竿を使う場合のいつもの伝で竿掛けを選び万力を調整してこの伊集院を載せたところ、竿の重みで半分ほど水に浸かってしまい、慌てて万力の筒先を上に向け直さざるを得なかった。

無論、手に持ってもその重みは遺憾なく感じられ、これは到底一日振ることはできそうもない――と先が思いやられた。



ただ、私の釣りは実にのんびりゆったりしたものなので、そのリズムで使えば変なストレスを感じることはなさそうだった。

振り調子も風姿そのもの、よく言えば大らか、悪く評せばぼんやり、櫓聲孤舟とは較ぶべくもない。


そんな風に正直落胆を感じながら釣りを進める内に魚が掛かった。

釣り調子もやはりその風体同様、鋭さは感じない。

さらに、自分の好みからすると硬すぎるし、胴への乗りも少ないようだ。

と思ったが、ふと目を上げて竿の撓りを見ると、竿全体が実に美しい円弧を描いている。

竿のほぼ中心を曲がりの支点とした本調子というべきもので、元上と元もしっかりと働いていることがはっきりと見て取れた。


こうなると不思議なもので、手の感触もそれまでとは一転、端正で清冽なものに変わっていた。

この時は七寸ほどの魚だったが、それが鉤を外そうと首を振る感触は少しも損なわれることなく手に伝わり、その後尺上が来た際には、余力を十分に残しながら悠々とした気分であしらうことができた。


そして気付くと、いつの間にか納竿の頃合い。

腕にそれなりの疲労はあったものの、釣り始めの危惧は杞憂だったことがわかり、その疲れも実に快いものだった。


結局、この買い物もまったく失敗どころではなかったのである。

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