孤舟(先代) 軟式純正鶺鴒 1966年作 13.2尺 節巻 綿糸握り

これまでの記事において、何度「孤舟」の名を出したことだろう。

しかしながら、紀州へら竿という水脈の源としての位置は師光と源竿師に譲るとしても、竿作りにおいて、哲学ともいうべきものを持ち、それに基づくさまざまなコンセプトを発案、実践したのは孤舟であり、系統や門派を超えて数多の竿師に多大な影響を与えた事実を鑑みれば、何ら不思議はない。

孤舟が打ち出し、その生涯を通じて守り通したものとして、製作年の明記・調子分類・等級分けがあり、これらを明確に、かつ一貫して自らの作品に適用し、その一門は忠実にこれを踏襲した。

そして、他の竿師たちもまた、これらのあるものを適宜取り入れてきたのである。


孤舟の調子分類は、「鶺鴒(せきれい)」が中心に位置付けられ、これより幾分胴に乗る感じの「純正鶺鴒」と共にへら竿の基本調子をなし、これらの頭に、さらに竿の硬軟を示す硬式・中式・軟式が付される。

その他、鶺鴒の派生調たる吐月峰(とげっぽう)、より趣味性の強いものとして、小べら釣りを意識した軽妙な「小々波(さざなみ)」、その反対に大物にも耐え得る、骨太な「川蝉(かわせみ)」などがある。


等級について言えば、高い順に非売、秘別選、飛ぬけ、ぬけ、準ぬけ、無刻(明記なし)に分けられているが、面白いのは、メンテナンスに出された際、これが変動する例のあることだ。

よい使い手に育まれて竿が成長した結果、その等級が上がったり、反対に粗雑な扱いを受けて衰微を来たすと、それが落とされたりするというのである。

竹竿は生き物――と真摯に考えていた孤舟らしいエピソードと言えよう。


今回ご紹介する、我がささやかなコレクション中の一本、「軟式純正鶺鴒 1966年作 13.2尺 節巻 綿糸握り」も、そんな孤舟の哲学・コンセプトの結晶といえる作品だ。



「飛ぬけ」「ぬけ」などのない無刻竿なので、等級としてはもっとも下位に位置するわけだが、なかなかどうして、それでもこの竿師の特徴である、振っての先抜け感、掛けての清澄感は申し分なく具えている。

軟らかめで、元から美しい曲がりを見せてくれる調子も、私にとってはこの上なく好ましい。


そしてさらに、実は私と同い年なのである。

些細なことではあるが、この事実もまた、竿に対する愛着を一層高めてくれている。

こんなことも、製作年がはっきり示されていればこそだ。

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