へらぶな釣りの四季―秋

へらぶな釣りでは、「秋はタナを釣れ」と言われる。

すなわち、魚のいる層を見極め、そこに餌が置かれるよう浮子の位置を定めて釣ることが、秋に釣果を上げる肝要事というのだ。

もっとも、これは魚影の薄かった昔の話で、多すぎるほど魚の入れられた現代の釣り場では、浅ダナでも深宙でも、まず問題なく釣れるだろう。


そもそも私は、「宙釣り・底釣り―へらぶな釣りの多様性」に書いたように、基本的には底釣り一辺倒なので、上の格言を心に留めているわけではない。

それはともかく、各季節に独自の趣のあるへらぶな釣りの四季の中でも、私は秋が一番好きである。


日に日に気温が下がり、夏のあいだぬるま湯のようになっていた湖水が、徐々に本来の冷涼さと清澄さを取り戻し、それにつれて魚の活性も落ち着いて、暴れがちだった浮子も適度に動きが抑制されてくる。

釣る側にしても、無論、日によって暑さ寒さは感じるものの、それは着るものの按配で解消され、要らぬストレスを感じることなく竿を振ることができる。


それに、何より景色が素晴らしい。

市街地の真ん中に位置する池など、ごく少数の例外を除けば、釣り場は大概自然物に囲まれているから、季節の進みに応じてさまざまに変化する木々の色合いを眺めながらの釣りとなる。

特に、水面に映るそれらの色が、浮子の周りに上手く散るような状況での釣りでは、秋の風情を一層深く感じるものだ。

落ち葉がはらはらと舞うのもまた一興。

ただ、これがあまりに過ぎると、水面に溜まって仕掛けや穂先にまつわるので少々邪魔にはなるけれど。


そうして、まだ温もりを残す午後の日も傾く頃、澄んだ高空を渡り鳥が飛び行く姿を眺めながら、いくらかうら悲しい情趣に浸って竿を納める。

秋は夕暮れ――と謳った枕草子の言葉は、へらぶな釣りにもまた、如実に当てはまると思う。

これでもし、その日の釣りがそれなりに満足のいく内容であったなら、もう何も言うことはないだろう。


私の住むところでは、その秋ももう末。

間もなく湖面が氷結して今シーズンも終わりとなる(氷を割って釣る人もいるけれど……)。

今年も結局、釣りへ行かず仕舞いとなるかもしれない。

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