若駒 最上作 12.1尺 白節巻 籐握り

文学や音楽の作品には、精神を集中して取り組んでこそその真味を理解できるものと、気軽に接するだけでその味わいを感じられるものがある。

このことは、紀州へら竿についても言えるように思う。

別の記事で挙げた五郎は、後者を代表する竹竿であるが、今回ご紹介する若駒もまた、その代名詞の一つと見做して間違いあるまい。


若駒の売りは、先ず何より、尺単価4千円程度という、極めて手頃な価格であろう。

カーボンロッドと同程度、むしろより安価に手にできるわけだが、安かろう・悪かろうでは決してなく、作りは丁寧・堅実で、それは若駒の第二の代名詞ともいうべき白漆の扱いにも、如実に看取できる。

ムラの生じやすいこの漆を施すにあたり、若駒は敢えて白さを抑制し、竹の地色に寄せるとともに、巻きの端は黒漆で縁どることで、非常になめらかで自然、それでいて印象的な意匠を実現している。



この「最上作 12.1尺 口巻 籐握り」は、そんな若駒の特徴を遍く具えた一竿。

しっかりめの合わせ穂のため、繊細な釣り味には些か欠けるものの、中式本調子という竹竿の中庸、その、手にやさしい風合いは十分に愉しめる。


個人的に、櫓聲や至峰、影舟などを使うには、それなりの気力の充実を要し、場合によっては重荷に感じることがある。

そんな時は本竿の出番、これが手元にあることで、今まで気持ち的にどれだけ救われたかわからない。


ところで、我々末端の消費者が目にする値より、若駒から問屋へ卸す価格はさらにずっと低くなるはず。

それで暮らしを立てるには、かなりの本数を製作し、売らねばならぬわけで、現在の竹竿をめぐる状況からすると相当の苦労があるに違いない。

そんなことを考えても、ぜひ、多くの人に若駒の良さを知り、そして使って頂きたいと願って止まない。

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