雲影 竹有情高野竹 11.2尺 節巻 綿糸握り

私が初めて手にした総高野の竿は、この「雲影 竹有情高野竹 11.2尺 節巻 綿糸握り」で、確か三本目の竹竿として購入したと記憶している。




以前の記事において、紀州へら竿には「舟」の字を持つ銘が多いと書いたが、今ふと、「雲」もまた目立つ漢字であることに気づいた。

試みにそれらを挙げてみると、八雲・瑞雲・青雲観・流れ雲・景雲、そして雲影がある。


雲影は貞石匠を師と仰いでこの道の修業を積み、同門にはすでにご紹介した忘我・五郎・魚光(豊魚?)がいる。

正直なところ、雲影については私もこれ以上の知識は持ち合わせておらず、一般にも、どちらかと言えば目立たない、地味な存在と見做されているのではなかろうか。


私の竹竿収集(というほど大袈裟なものではないけれど……)は、櫓聲をその中心・核とした上で、他の銘については、仮に浅くなってもできるだけ広くなるよう求めて来た。

その最大の理由は言うまでもなく金銭的制約であるが、それに加えて、当初は、色々な竿師の作を手にして実地に使用し、それぞれの特色を体感したいとの想いがあったのも事実である。


そんな中、例外的に雲影だけは、コレクション初期の段階で3本を購入した。

無論、それは雲影の味わいに魅了されたからで、「竹有情高野竹 11.2尺 節巻 綿糸握り」がその端緒となったわけだ。

と言っても、そもそもの初めは、特に雲影という銘を意識したわけではなく、単に漠然と「総高野の竿とは、どんなものなのだろう」との興味を抱いている時、偶然出くわしたに過ぎない。

それを実際に手にして対面した際、節の詰まった毅然とした風貌と、適度にシミの入った得も言われぬ趣きに強く心を惹かれた。

そして竿に水を見せ、振り調子・掛け調子を確かめた時には、「なるほどこれが総高野竹か」と、まるでこの生地組みの竿のすべてが一瞬のうちに体得されたように感じたことを覚えている。

先に「総高野(竹)・総矢竹の竿―特徴と味わい」に述べた内容は、この時の印象にほとんど立脚していると言っても過言ではない。


生地組みや意匠において、雲影には奇を衒ったところはほとんどなく、極めてオーソドックスな作りをなしている。

ただ、よく見ると、負担の掛かる玉口を二重巻きにしたり、巻きの塗りもやや厚めに丁寧に施すなど、細部へのこだわりがはっきりと窺える。

勿論調子も秀逸で、紀州へら竿の良さを知るに適した竿は――と尋ねられたら、その上位にこの雲影を推すことに、私は吝かでない。

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