総高野(竹)・総矢竹の竿―特徴と味わい

今回、「総高野竹竿」と「総矢竹竿」の特徴や味わいといったことをご紹介するに当たり、先に「紀州へら竿の構成」でも述べたことをまず今一度書く。

まず、紀州へら竿は継ぎ竿で、いくつかの部位を継いで釣りに用いる。

その各部位は竹を素材とするが、一本の竹から一本の竿が作り出されるわけではない。

さらに、使用される竹の種類も部位によって異なり、穂先は真竹、穂持は高野竹(すず竹)、
三番・元上・元などは矢竹を素材とする。

そして、この基本的な構成のバリエーションとして、穂持より下の部位にもすべて高野竹を採用した竿を「総高野竹竿」、あるいは単に「総高野竹」「総高野」「高野竹」などと称するのであった。

この構成においても穂先は高野竹ではないので、言葉の厳密な用法からすれば、「総高野竹」というのは適切でないわけだが、習慣的にこう呼び習わされているのである。


高野竹は、その名が示す通り、もともと高野山周辺によく見られた植物である。

標高800mほどの高地に自生し、直径5mm、高さ1m程度のものが多いが、中には直径10mm、高さ2mくらいの個体も混じる。

このサイズ、および適度な硬度および弾性を具えているところから、紀州へら竿の穂持ちの素材としては理想的なわけだが、元上・元(特に長尺竿の)に使用するには若干小振りであり、さらに乱獲などもあって、総高野竿に適した素材が求めにくくなったため、現在はより大きな個体の見出される別の土地――特に九州産の高野竹が使われることもある。

ただ、竿師はやはり高野山で採れる地の高野竹にこだわりを持っているようで、心道などは九州産高野竹で製作した竿については、竿袋に「高野竹」と記し、「総」の字を抜いて区別しているし、より極端に「地産の高野竹しか使わない」という竿師もいる(いた)かのではにかと思う。


そんな高野竹を穂先以外すべての部位に採用した総高野の竿は、軟らかめで、しっとりとした粘りで魚を浮かせてくれるものが多い。

その独特な味わいに魅せられたファンも多く、上の表現と同様になるが、「総高野の竿しか使わない」という釣り人もいる(こちらは実在を確認済み)。

私も総高野好きの一人だが、これ以外手にする気の起こらないほど嗜好が強くはなく、保有する竿は基本構成のものが5、総高野が3といった比率である。


ただ、そんな総高野の中には、特に強靭な素材を敢えて採り、「全身これ力の塊」といった感じの、張りに満ちた竿も存在するので、購入する際には念のため確認された方がよいだろう。

私の保有する竿の中にも、これに該当するものとして、「師光 特作高野竹 10.1尺」「紀州路 総高野 12尺」などがある。


ところで、繰り返しになるが、総高野とは穂先を除きすべて高野竹で組み上げた竿だ。

従って、その特質を遺憾なく味わうには、竿全体を働かせることが肝要で、これは、魚が掛かった際、竿をためることが必要だと思う。

この必要条件を無視し、魚が掛かった直後に手首を返して竿を立ててしまっては、ほとんど穂先のみしか機能しないわけで、総高野も何も関係なくなってしまうはずだ。

つまり、総高野の竿を堪能するには、より一層ゆったりとした鷹揚な心が求められるということである。


さて、一方、硬めで強靭な調子を実現するため、穂持に敢えて矢竹を使った竿も存在する。

これが「総矢竹」と呼ばれるものだ。

こちらは総高野に比べてぐッと数が少なく、遺憾ながら私も一本も保有していない。

したがって具体的な使用感などをご紹介することはできないのだが、総矢竹の竿は、竿師に「総矢竹竿を作ろう」との意図がそもそもあって取り組むのではなく、偶々穂持に適した矢竹に出会った折、「一つ手掛けてみるか」との気持ちが湧き出たり、あるいは顧客や問屋から特に注文を受けて形をなすような気がする。

では、総高野の方は――となると、さてどうだろう。

竿師によっても異なるし、場合に応じて変化もするのではなかろうか。

初めから総高野を意識して生地組みされることもあれば、素材を見て総高野が竿師の頭に浮かぶこともある――というように。

コメント

  1. 矢竹は硬式、高野竹は本調子と使い分けされていると感じています。

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    1. 冨田 様

      総高野竹竿に強い嗜好を持つ人は多いですが、総矢竹竿の方も、数は少ないながら熱烈な愛好者がいらっしゃるようですね。

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