げてさく 年輪 よしきり 13.2尺 蒔絵口巻 銘木握り

私が「げてさく」に出会ったのは、竹竿を使い始めて間もない、確か三、四ヶ月経った頃だったと記憶している。

初めは竿自体より、その奇妙な銘に強い印象を受けた。

これは私に限らず、多くの人がそうであろう。


「げてさく」なる銘の正確な謂れは浅学のため知らないけれども、恐らく「ゲテモノ(下手物)」に因んでいるのではなかろうか。

これが真だとして、そのまま漢字を当てれば「下手作」ということになる。

しかし無論、このような銘を採ったのは、作者の謙遜・自己卑下の気持ちの現われであり、そこにさらに洒落ッ気・茶目ッ気が重なり、「まあとにかく、竿を手に取り、使って見てくれ、」との思いが籠められているいるように感じる。

そんな、作者の恬淡な性格、そして意気込みと自信は、実際の銘の表記として、希(まれ)に濁点を打ち「希"てさく」としたところにも看取できるように思う。


さて、私が出会い、手にした一本は、「年輪 よしきり 13.2尺 蒔絵口巻 銘木握り」である。


竹の自然な風合いをそのまま活かすべく口巻を採りながら、そこに蒔絵を、煩くならないよう控えめにあしらっている。

そして、恐らく神代杉であろう、銘木の握りにも、その上部に玉口と呼応する形に蒔絵の点景。

その姿は、飄々としていながら、気品と色気をも兼ね備えた美女を想起させるものだ。

釣り味も外観同様、粋でしなやか、そのたおやかさに酔うかの如く、魚が上がってくる。


ただ、その釣趣を実現すべく穂持ちの火入れを抑えたためか、魚とやり取りするごとに少々曲がりの出る感を否めない。

その時は竿を半回転してやれば大きな反りに進むことはないので、大した欠点ではないのだが、気になるといえば気になるところである。

でも、フト、「そんな些細なこと、気にせんでもええやない(か)、」という作者の思いが、たおやめの声となって心に響き、「確かにその通り、」と妙に得心できるのだ。

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