伊集院 旭 12.2尺 節巻 綿漆握り

その銘から、個人的には紀州へら竿の王道を一直線に歩んできた竿師と勝手に想像していたのだが、実際は竿作りの道を進み始めたものの、すぐに挫折し、15年ほど様々な職業を経た後、再び元の世界へ戻ったという異色の経歴の持ち主が、この伊集院である。

しかし、その手になる竿は奇抜なものではなく、良い意味で紀州へら竿の特質を忠実に踏襲したものと言えよう。

初めは山彦、二度目には秀成と、源竿師・師光両系統の師についたことは、確かに回り道ではあったかもしれないが、結果的に大きな実りをもたらしたようだ。


この「旭 12.2尺 節巻 綿漆握り」は、伊集院の中で高級品に位置付けられる一竿。


さらに上の脇銘に極旭があるけれども、こちらが螺鈿をあしらった華麗な漆握りであるのに対し、旭が概ね実用性本位の綿握りとなっている点を除けば、竿の調子自体に大きな差異はないと思われる。

その実用性に対する意識が強いのか、伊集院は一貫して合わせ穂を採用(付記:本記事へのコメントもご参照のこと)し、先端の結糸部も仕掛けの着脱の容易なリリアンとしているのが特徴。

ただ、合わせ穂といっても、決して、ズドンとした味も素っ気もないものではない。

竿全体として捉えた時、穂持及びその下の部位と緊密に協働し、見事な弧を描き見せてくれる。

無論、視覚的快味だけに止まらず、その釣り味も一級品だ。


どちらかと言えば剛の竿師である伊集院、しかしこの旭は中式本調子の見本とも言える一本で、張りと粘りのバランスが絶妙。

このように何ら不満はないのであるが、伊集院が削り穂・蛇口の竿を作ったら、果たしてどのようなものになるのだろう――との興味は抑えがたい。


いつか、その実現を見る時が来るのだろうか。

いや、現代の釣りの状況からしても、その実現は難しいに違いないが、仮に来るとしたら、ぜひとも手にしてみたい。

コメント

  1. 私が所有して販売した伊集院は全て削り穂でした。
    小売店、問屋の注文で使い分けているようです。

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    1. 冨田 様

      「伊集院は合わせ穂」とどこかで耳にした記憶があり、また、私の保有する二本、およびこれまで直接・間接に目にした伊集院もみな合わせ穂だったことから、そう思い込んでおりました。
      分布に偏りがあるようですね。

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