紀州へら竿の構成

紀州へら竿は継ぎ竿で、いくつかの部位を継いで釣りに用いる。

この部位の数は、三から五が標準的で、それぞれについて細い方から挙げると次のようになる。

三継ぎ:穂先、穂持、元
四継ぎ:穂先、穂持、元上、元
五継ぎ:穂先、穂持、三番、元上、元

これを見てお分かりの通り、「x継ぎ」のxは、継ぎ部の数ではなく、継がれる部位の数であるので、ご注意を。


さて、紀州へら竿は竹を素材としているが、一本の竹から一本の竿が作り出されるわけではない。

上に挙げた各部位それぞれに適した素材を選んで組み合わせ、全体として竿としての機能と調子を実現することが、竿師に課された大きな仕事となる。

これを「生地組み」「切り組み」などといい、この技量がないと、他の工程に如何に優れていても、さらにどれほど注力しようと、良い竿は決して生まれない。

それゆえ、竿師に要求される最も重要な能力の一つと言ってよいだろう。


実は、「一本の竹から一本の竿が作り出されるわけでない」だけでなく、使用される竹の種類も部位によって異なる。

この選択にもいくつかのバリエーションがあるのだが、先ずは基本となる構成を見ていこう。


第一に、穂先に使われるのは真竹、すなわち筍の成長した竹である。

穂先には二種類があり、一つは、この真竹を細く割り、その一本を削って成型した「削り穂」、もう一つは、細く割った真竹を二本から四本張り合わせた上で削り出す「合わせ穂」だ。

第二に穂持だが、これには高野竹(すず竹)が用いられる。

へら竿においては、この穂持の意味合いが非常に大きく、実際、穂持に高野竹を採用することで紀州へら竿の基盤が確立されたと言うことができるし、生地組みにおいても、竿師は穂持にする素材を選び、これを中心にどのような穂先、元などを合わせるか――と考えるそうである。

そして第三に、穂持より下の、三番、元上、元としては、矢竹が採用される。

名称からも想像されるように、これは矢の素材となる竹(学術的には笹に分類される)である。

以上が紀州へら竿の基本構成。


次いで、構成のバリエーションをご紹介するが、その前に、素材となる竹の特徴を簡単に述べておくことで、全体としての竿の調子をイメージしやすくなると思う。

素材の特徴を一言でいえば、高野竹は「粘り」、矢竹は「強さ」である。

基本構成では、穂持より下、元側には矢竹が用いられると書いたが、これらの部位にもすべて高野竹を採用した竿を「総高野」と称す。

この竿は、高野竹の特質が竿全体に及ぶため、軟らかめで、しっとりとした粘りで魚を浮かせてくれるものが多い。

総高野の竿には愛好者が多く(私もその内の一人)、そのためもあってかなりの本数が世に送り出されている。

一方、総高野に比べるとぐっと数は減るものの、硬めで強靭な調子を実現するため、穂持に敢えて矢竹を使った「総矢竹」の竿も存在する。


ここで穂先に戻ろう。

削り穂と合わせ穂、これらの相違による振り味、釣り味にもまた顕著な差がある。

しかし、それを書き出すと長くなりそうなので、これについては改めて稿を起こすつもりだ。

ただ、容易に御想像頂けることと思うが、一般に、繊細な削り穂に対し、合わせ穂は剛健な印象を釣り人に感じさせる傾向が強い――とだけは述べておく。


この他、孤舟が実験的に製作した寒竹の竿や、穂先を含めて布袋竹だけからなる総布袋竹などもあるけれど、極めて特殊なものである上、いずれも私自身使ったことがなく、印象をお伝えすることも出来ないので、割愛する。

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