芳匠 中式正律子 1977年作 14.7尺 総塗り研ぎ出し 綿握り

紀州へら竿は、竿五郎の後を受けた師光と源竿師の二人を源として、二つの滔々とした系統が生じ、現在に至っている。

が、もう一つ、この流れとは別に、優れた感性と技量、さらに飽くことのない探求心を具えた独立独歩の天才、孤舟を始祖とする一群の人々も忘れてはならず、また実際、看過されることは決してないであろう。


ただ、師光・源竿師から発した竿師たちが、それぞれ固有の特徴を開花・結実させて千紫万紅たる様相を見せているのに比べると、孤舟に教えを受けた弟子たちは、総じて独自の特質は敢えて追及することなく、ひたすら師の竿作りの道を踏襲してきた感がある。

これを考慮すると、孤舟のもとに集まった一群の竿師を総称するには、「系統」よりも「一門」とするのが適当かもしれない。


今回ご紹介する「中式正律子 14.7尺 総塗り研ぎ出し 綿握り」は、その孤舟一門の一人、芳匠の作である。


孤舟の基本調子は、言わずと知れた「鶺鴒」で、これに硬式・中式・軟式を付加した形でより細かく竿の調子を表す。

一門に属する竿師たちもまた、おしなべて同じ調子名を採用しているが、芳匠は本竿において、この点にまず一つ独自性を出している。

また、その意匠(デザイン)も、総塗り・研ぎ出しで仕上げてあり、非常に装飾性の高い姿を見せている点も注目に値する。


一方、竿の基本要素たる機能性については、しっかりと孤舟の思想に準拠しており、蛇口の繊細な削り穂、綿糸握り、一目で孤舟一門の作と分かる石突きなどを具え、もちろん、極めてバランスのよい、竹竿であることを忘れるような振りの軽さと、竹竿ならではの釣り味とが実現されている。


しかし、遺憾なことに、釣り場でも、紀州へら竿を扱う店でも、芳匠を目にする機会は現在ほとんどない。

手元にその一本がある私は、幸運だと思う。

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