投稿

10月, 2021の投稿を表示しています

一心竹 特作山城 13.2尺 口巻 籐・乾漆握り

イメージ
私が紀州へら竿に魅せられてこの世界に次第に深く足を取られることとなったそもそものきっかけは、「 源一人 煌 10.1尺 口巻 籐・漆握り 」を手にしたことだが、それからさほど間を空けずに続いて入手した「一心竹 特作山城 13.2尺 口巻 籐・乾漆握り」の影響も小さくない。 元々、源一人を入手したのは、「竹竿を一本持ちたい」という程度の気持ちからで、それが叶い実際に使ってみて竹竿の素晴らしさに驚いたことは確かだけれど、そこから直ちにまた食指が動いたわけではなかった。 では何故一心竹を?と言われれば、理由はごく単純、源一人購入の際にその価格一割分の商品券が付けられ、折角なのでこれを利用しようと思ったのだ。 源一人を選択するに先立ち、紀州へら竿にはどのようなものがあるのか一通りは調べていたものの、当然ながらまだほんの上辺を眺めただけ、各竿師の特徴や評価などわかるはずもなく、また再購入の動機も上のようなものだったので、いま一本の選定は主に価格を基準にした。 加えて、源一人が十尺と短いので、少し長めのものがよかろうと考えた。 もっとも、あまり長いと果して使いこなせるだろうかとの懸念があったため十三尺程度のものに的を絞り、その結果見つけたのが一心竹だったのである。 これを初めて振った時、二つの印象を覚えたように記憶している。 まず、流石にカーボンに比べると重い、しかし徒に振り回そうとしなければ決して使い難くはなさそうだ――ということ。 もう一つは、竿を寝かせた時のだらりとした姿に対する違和感である。 第一の印象は、すぐに実際その通りであることがわかった。 片や違和感については暫く継続したものの、ふと気づくといつの間にか全く気にならなくなっており、それどころか偶にカーボンロッドを出した時など、何となくピンと伸び過ぎているように思えてこちらの方に不自然さを感じるようになった。 この感はカーボンロッドとの併用期間を通じて一層明確になっていき、最終的にカーボンロッドをすべて手放すこととなったのである。 もっとも、これらはいずれも中尺の竹竿一般の性質で、別段一心竹に限ったものではないだろう。 では一心竹固有の特徴らしいものは何もなかったかと言えば、確かに感じはしたのである。 しかしそれは、源一人で体験して一驚を喫した、魚が掛かった時に竿が自ら魚を上げ寄せてくれる溌溂さがなく、恰も...

夢坊 特作高野竹 15.2尺 口巻 籐・漆握り

イメージ
前回ご紹介した 師光 と同じく、夢坊も先代の銘を継いだ竿師である。 1954(昭和29)年に日生まれ 入門が1977(昭和52)年というから、紀州へら竿の世界では遅い歩み出しと言えるかもしれない。 となると既にある程度の自意識は持っているわけで、我を主張しがちではないかとも想像されるが、実際の夢坊の竿は、その根底に極めてオーソドックスな、伝統に根差したコンセプトと技術を置いている印象が強い。 これは何より、へら竿の基本機能、すなわち仕掛けを運び、魚を掛け、そして上げ寄せるという一連の動作を、使う者が変な意識を持つことなく自然な流れで行えるところに見て取ることができる。 その一方――というよりそれに加えて、夢坊はまた新しい意匠や、現代の釣りに適合した竿作りにも情熱をもって取り組んでいるように思う。 遺憾ながら私の手元にはないのだが、紫を帯びた漆で巻きを施した、確か「紫苑」という脇銘の作品があり、これが前の一つを代表するとすれば、総矢竹竿や三本仕舞でしっかりした調子を出すことで、後の目当てに応じている。 このように常に新旧両方向を意識し、目を向けている夢坊だからこそ、その融合の具現とも言うべき、脇銘「今昔」を生み出すことができたのであろう。 私の保有している夢坊は一本、「特作高野竹 15.2尺 口巻 籐・漆握り」である。 総高野の長尺、軟式胴調子の竿ゆえ、扱いにはそれなりの技術を要するものの、個人的にはその習得もまた愉しかった想い出がある。 エサ打ちでは竿全体を大きく撓ませ、その戻りを利用して送り込み、魚が掛かった際にも、急ぐことなく、竿の各部位を十分に働かせる――つまり、標語的には「ゆったり、大きく」という単純なことなのだが、場合によってはこれがなかなか難しいとも言えよう。 特に、魚を沢山釣ることを念頭に置いていたら、まず無理である。 また、短竿で浅いタナを釣った後なども、リズムを戻すのに少々苦労する。 これらを鑑みるに、本竿は「旧」の要素の強いものかもしれないが、個人的には自分の嗜好に合っており、至極満足している。 握りは透き漆と籐を交互にあしらったもので、光の加減により実に妖艶な輝きを見せてくれると同時に、以前どこかに書いた通り、見かけとは異なり、その漆は滑らず、手にしっとりと吸い付くため、操作性も上々。 晩秋から初冬にかけての釣りには正に好適、欠かせない一本だ。...